大阪高等裁判所 昭和61年(う)274号 判決
論旨は,要するに,被告人を懲役6月,2年間刑執行猶予に処した原判決の量刑は重きにすぎて不当であり,被告人を罰金刑に処するのが相当であるというのである。
そこで,所論にかんがみ,記録を精査し,当審における事実取調の結果をも参酌して考察するに,本件は,被告人が普通乗用自動車を運転して交差点にさしかかつたところ,先行車両の動静に注意し,その動静に即応しうるよう速度を調整して進行すべき注意義務を怠り,前方約53メートルの先行車両が加速して進行するものと軽信し漫然時速50ないし60キロメートルに加速して進行した過失により,同車との車間距離約4.6メートルに近接し,追突を避けるため急制動して右に急転把した結果,自車を対向車線に暴走させ,対向して来た普通乗用車に自車を衝突させ,同車運転者に全治約3日間の,同車同乗者に加療約7日間の各傷害を負わせ,右事故を起こしたのに,そのまま逃走して法定の負傷者の救護などの措置を講ずべき義務及び警察官に報告すべき義務に違反したという事案であつて,右過失の態様が一方的でかつ重大であるうえ,右衝突の程度が証拠上認められる被告人車及び被害車の各損傷状況に徴し軽微なものではなかつたのに,自己の責任を免れるために逃走していることに照らすと,犯情は悪質であるといわざるを得ず,さらに,その後被告人は,原審相被告人仲井保範が被告人を庇つて本件につき身代わり犯人として捜査官の取調べを受け起訴されるに至つてもなお名乗り出なかつた事情をも併せ考えると,被告人の刑責は決して軽視することができないものであるというべきである。そして,本件事故による被害者2名の各傷害がいずれも軽微であること,被告人が同人らに対し治療費などの弁償をして各示談を成立させ,同人らにおいて被告人の寛大な処分を願つていること,被告人は若年であつて前科が皆無であること,被告人が本件を深く反省し,金5万円余を公的機関に贖罪寄付したこと,被告人は,本件被告事件につき執行猶予付であつても懲役刑が確定すると,現在勤務している柏原市の職員たる身分を失うことになることなど所論の諸点を含め被告人に有利な一切の事情を十分斟酌しても,被告人を罰金刑に処するのが相当であるとまでは認められず(所論は,被告人に対し懲役刑を選択することは,その公務員たる身分の喪失につながり,民間人に比し苛酷な制裁をすることになるから,罰金刑を選択すべきである旨を強調して主張するところ,たしかに地方公務員などのように執行猶予付であつても禁錮以上の刑に処せられることによりその職を失うという場合には,刑種選択に当たりその事情も考慮する必要はあるが,その事情を考慮して罰金刑に処することが許されるのは,せいぜい一般人に対する量刑として罰金刑との限界に近い禁錮刑又は懲役刑に処する事案の場合に限られるというべきであり,本件における被告人の刑責は,一般的にみて罰金刑を選択するにはほど遠いものであるから,被告人が柏原市の職員たる身分を失う事情を考慮しても,懲役刑の選択はやむを得ないものであり,右主張は採用することができない。),原判決の量刑が重すぎるとは認められない。論旨は理由がない。